リアリティー
テレビでゲイリー・クーパーの主演映画「コルトバ」を観た。ひたむきな男を演じてゲイリー・クーパーはピカ一だと思う。あの頼り無げな歩きようが観るほどに気高くたくましく見える。頼りなげでいて、その実しっかり者であるところ、いつの間にか彼の人間性に引き込まれてしまうところなどは、コロンボ警部や金田一探偵の場合と似ていなくもない。でも、どこかが違う。
ときに、「面長」・「ノッポ」・「ふらついた歩き様」・の三つ。これは私とそっくりだ。残るは彼の“ひたむきさ”、
「パッパの釣もひたむきや。ゲイリー・クーパーみたいなもんや」と、私。
「あきれて、ものが言えんわ」と愚妻。
◇ ◇ ◇
入院中の父を病院に見舞い、スクーターで自宅へ戻る途中、軽四トラックと衝突した。事故の責めは全面的に私にある。軽四の前がボコッとへこんだ。私が勝手に衝突したのだ。だが、軽四を運転していたおじいちゃんは、「あんた身体は大丈夫かいな」と言っただけで私を全く責めなかった。私は平あやまりに謝った。結果は、双方お構いなしということで別れたが、これ一重に温和な軽四おじいちゃんおかげである。
さて、一息ついてみると、何が痛いといって修繕代ほど痛いものはない。軽四の修繕費は以上のようなことでこらえてもらったものの、自分のスクーターは自分で修繕しなければならない。購入後まだニか月足らずの新車である。左足首をネンザ。手首から肩にかけ腕全体が丸太棒みたいな感じ。だが、そんなもの痛くもかゆくもない。スクーターの修繕代の方が痛い。
修繕のため単車屋へ持って行くと、若い店主が、「奥さんは怒とってですか」と問うた。思えばニか月前、この店でスクーターを買った時、買値の交渉は女房がしたのであった。店主は私のことを女房の尻に敷かれた座布団亭主だと思っているらしかった。
「おいや、めちゃめちゃ怒っとる。修繕代が高かったらかみさんにはっ倒される。助けてくれ」と私。
なお、衝突相手の軽四の乗り手は三木市の某造り酒屋のおやじさんだった。酒屋のおやじと聞いたとたん吟醸酒の香りがした。酒には肴、いずれ、釣果をお届けしたいと思っている。
◇ ◇ ◇
俗に、「入れ食い」という言葉があるが「入れ食い」の上となるとどう表現したらろうか。この日は、針に掛かった魚の尻尾を次の魚がくわえ、その尻尾を更に次の魚がくわえるといった感じでゾロゾロ釣れたのである。で、妹の主人と私の二人の“入れ食い”釣りの釣果だが、何匹釣ったか多すぎてわからない。大アイナメは今期初めてのものだった。ひょっとしたらこれからポンポン釣れるかもしれぬ。地震で緊急避難していた者達が古巣へ戻ったのだろうか。
さて匹数はわらんから代わりに目数を数えてみよう。
まずアイナメ。そして、カレイ。あとは、シイラ・小鯛・キス・コチ・アナゴ・タチウオ・マルハギ・ウマツラハギ・トラハゼ・の計十二目。本当はもう一目あったが釣り逃がした。竿が魚にのされてへしゃげ、リールの力が限界を越え、二人で交互に道糸を掴み引きづり揚げようとしたが、糸が切れて取り逃がした。どうやらコブ鯛の巨大なやつらしかった。推定約一メートル。後で人に聞くと今までに幾人かが同様の綱引きを経験しており、内何名かは船縁まで引き寄せたことがあったらしい。
キスを生餌にヒラメをねらうと、ときおり激しい当たりがあって、キスをエラ下からパクリと食い千切ってしまうのがいた。ではと、尻ヒレあたりに孫針を打ったら、今度は孫針ごと食い千切ってしまう。タチウオかとも思うが私にはそうとも思えない。次回は孫針のハリスを三号から五号に変えて釣るつもりだ。
前述の大物を逃がした十分ほどあとで、同行の妹の主人が「震えますねぇ〜」と言った。ああそうだ、こういう場合は足が震えるのだったと思ったが、私の足には彼の感じたリアリティーは訪れなかった。